新聞掲載記事平成27年11月

離婚時の厚生年金分割制度

Q. 私は55歳の女性です。夫とはもう何年も別居中で、離婚して将来の年金を分割したいと思っています。離婚分割とはどのような制度でしょうか。私には子どもが1人います。

厚生年金の離婚分割とは、会社員や公務員の夫とその妻が離婚する場合に将来の年金を合意の上、分割することができる制度(合意分割)です。平成19年から導入されました。施行日の平成19年4月1日以後の離婚ならば、この日前の婚姻期間も含めて双方が按分割合を決めることができ、協議できなければ家庭裁判所の離婚調停の手続きで決めることもできます。翌平成20年からは専業主婦(国年3号被保険者)を対象に平成20年4月1日以後に離婚した場合にその日以降の婚姻期間に限り、夫婦どちらか一方の請求により自動的に50%が分割(3号分割)される制度もできました。

分割対象の「期間」は、2人が結婚(別居も含む)してから離婚する迄です。この間に払った保険料をベースに算定し、独身時代や前夫との期間は対象外です。分割される年金の「種類」は、厚生年金のうち現役時代の収入に応じて保険料を払う「報酬比例部分」だけです。基礎年金や勤務先の企業年金は含みません。また夫が公務員等ならば共済の対象部分だけ、自営業ならば国年なので分割部分はありません。結婚後に妻が働いて厚生年金期間があれば夫と妻の報酬比例部分を合算した上で分割しますが、収入が多い方から少ない方へ一部分けるのが基本です。その際、夫妻とも受給権発生時に25年以上の受給資格期間を満たしていなければ、分割された年金を受けることができません。また障害厚生の受給期間は対象外なので、その期間を除いて分割します。離婚分割請求できるのは離婚した日の翌日から2年です。

私見ですが、離婚分割で夫が将来受け取れる年金額の50%を丸々妻がもらえる訳ではありません。離婚事件を扱う士業事務所では財産分与の1つの制度として紹介していますが、必ずしも分割後の年金が増えるのかも分からない。ですから離婚分割で老後のバラ色の人生が送れるとお考えならば熟考を。①夫婦ともずっと国年だけで厚年・共済に入っていない、②厚生年金期間が平成20年4月以降だけで一方がずっと国年3号者、③婚姻期間が数年と短い、④夫婦ともに25年以上の受給期間を満たせない等、離婚分割後期待した結果が得られない恐れがあります。例えば「婚姻30年、手取り賃金40万円」で妻の分割額は4~5万円。これに妻本人の基礎年金との合算額で子1人と暮らせるでしょうか。分割期間により老齢厚生の受給権を発生できないし、加給年金の支給要件にもならない。老齢基礎の受給権者が離婚した場合でも原則として振替加算は行われますが、離婚分割により240月未満だった厚生年金期間の月数が240月以上になると振替加算もされないので、年金制度上の加算も期待できない。手続きには慎重な判断をしていただきたいと思います。

みくに労務管理事務所  特定社会保険労務士 渡邊孝利

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