新聞掲載記事平成26年9月

退職の申し出について

Q. 10月1日に当社の従業員が10月15日を退職日とする退職届を提出してきました。当社では就業規則にて退職の申し出は退職日の1ヶ月前までと定めておりますので、「10月15日での退職を認めない」と伝えたところ、その従業員は「2週間が経過すれば退職できるはずだ。この就業規則はおかしい」と言って譲りません。当社の就業規則が間違っているのでしょうか?

雇用契約の解約の申し入れについて見解が会社側と労働者側で食い違っているようですね。

使用者側が解約の申し入れ(いわゆる解雇)をする場合は労働基準法では一定の条件を定めていますが、労働者側からの申し入れ(いわゆる自己都合退職)に関しては労働基準法での定めがなく、民法の適用を受けることになります。民法では期間の定めのない契約についてはいつでも解約の申し入れをすることができ、解約の申し入れをしてから2週間が経過することにより雇用が終了すると定めています。先の従業員はこの部分を根拠に主張しているものと思われます。ですが、労働基準法は「適用が強制される」強行規定であるのに対し、民法は「法律と異なる規定をした場合はあらかじめ当事者間での合意が優先される」任意規定であると一般的には解されることが多いようです。つまり、今回のケースは民法の規定よりも就業規則の定めが優先されることになるので、退職の申し出は退職希望日の2週間前でなく御社の就業規則に定めている1ヶ月前までということになります。従って御社の就業規則は間違っていないでしょう。

しかし、民法より就業規則が優先されるからといって退職届の提出から実際の退職日までの長さは制限なく認められるものではありません。この判断基準は①業務引継ぎの必要があること、②会社が後任者を雇い入れるために必要な最小限の期間であることが目安となると解されています。実際に「退職希望日の3ヶ月前に退職届を提出させる」といったケースが裁判で争われましたが、「退職3ヶ月前までに退職届の提出を義務付ける規定は退職の自由に反し無効」との判決が出ています。多くの会社が退職の申し出は退職希望日の1ヶ月前までと定めているのはこのような事実があるからかもしれません。従って御社の就業規則に定めている1ヶ月という期間についても妥当であり問題はないでしょう。

みくに労務管理事務所 社会保険労務士 竹沢智弘

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